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北海道の地にサッカーを根付かせた功労者に学ぶ、空気を変えるキセキの組織運営術

2020/09/20 09:00

サッカーの「価値」を信じ、既存の常識にとらわれない発想で、北海道コンサドーレ札幌を魅力あるチームに育て上げた経営者、野々村芳和氏。JCI日本次期会頭、野並晃がJリーグの軌跡に、奇跡を起こしたサッカークラブのサクセスストーリーの秘密に迫った。


野並晃(以下野並):2020年9月25日から27日、本来であれば、全国各地の日本青年会議所約1万名ものメンバーが札幌の地に集い、本年度の集大成と次年度の活動方針を共有する重要な大会(第69回全国大会北海道札幌大会)が行われるはずでした。残念ながら、新型コロナウイルスの感染再拡大のため、執行部はオンライン開催に切り替えることとしました。オンラインに切り替わったとはいえ、この北海道札幌大会の意義が損なわれるわけではありません。オンラインだからこそできる時代に先駆けた大会にしていくつもりです。本大会のコンセプトは「キセキ」です。1951年の設立以来、私たちJCI日本は、「新しい日本の再建は我々青年の仕事である」というビジョンのもと、現在に至るまでいつの時代も立ち止まることなく、組織を進化させてきました。現役世代もまた伝統を紡いできた軌跡、起こしてきた運動の奇跡、その「軌跡と奇跡」を継承し、未来へ向けて新たな「軌跡と奇跡」を生み出していかなければなりません。日本有数の観光地でありながら、世界に誇れる都市機能をつくり上げた北海道は、JCI日本が新たな誓いを立てるのにふさわしい最高の場所だと私は思っています。その北海道では今、サッカークラブ、北海道コンサドーレ札幌のイニシアチブが地域社会全般に大きな活力をもたらしています。2013年、代表取締役社長に就任した野々村芳和社長は、クラブの伝統を受け継ぎながらも、新時代の開拓者として数々の改革を試み、Jリーグにおけるコンサドーレのプレゼンスを高めてきました。本日は、日本社会が困難な時代を勝ち抜くためのヒントをいただきたくお伺いしました。

 

野々村芳和(以下野々村):私の話がJCI日本のお役に立てるかどうかはわかりませんが、何でも聞いてください。

 

野並:最初にお聞きしたいのは、このコロナ禍でJリーグも例外なく、年間スケジュールの見直しを余儀なくされました。リーグ再開まで、この逆境をどのように乗り越えようとお考えでしたか。

 

野々村:そもそもサッカークラブというのは、様々な人たちのサポートによって成り立っています。経営者はそれをどのような形でお返ししていくかを最優先で考えなければなりません。3月初旬に、「いつも周りの人たちに支えられているのだから、自分たちのクラブのことを考えるよりも、今、我々に何ができるかを考え、支援してくださるすべての人の救いになることを優先してやろうよ」ということをスタッフ、選手全員を集め、伝えました。

 

野並:その後、コンサドーレの選手たち全員が自発的に報酬の一部の返納を申し出たことがニュースで流れました。その金額は1億円を超えたと聞いています。また、クラウドファンディングで6000万円近く調達したことも話題になりました。

野々村:私がうれしかったのは、選手たちがそのお金を北海道の人たちのために使ってほしいと提案してくれたことです。サッカー文化が北海道に根付いていることをあらためて選手たちが証明してくれたのですから、私も勇気をもらいました。ポストコロナ時代には、様々な活動をさらにアップデートさせていきます。

 

北海道とともに、世界へ

 

野並:コンサドーレの歴史を振り返ると、資金面、設備、選手層など、恵まれた環境下でスタートしたクラブではなかったという印象をもっています。そこから試行錯誤を重ね、地域社会を巻き込みながら成長してきましたよね。しかしながら、なかなかJ1リーグに定着できず、観客動員数も上がらないという低迷期が続きました。そんな状況下の13年に、野々村社長は、コンサドーレの社長に就任しました。そもそも就任当初は、どのようなことをお考えだったのでしょうか。

 

野々村:経営の経験、知識もないまま、社長に就任しましたが、プロサッカークラブの経営者の本質的な仕事は、応援してくれる方々に魅力を感じてもらうサッカーをピッチで表現し、なおかつ地域の人々に愛されるクラブとして維持し続けることだと思っていました。8年前、このクラブの経営陣に招かれたときには、正直なところ、現状のリソースではそれはかなわないだろうと感じました。当時の経営陣が力不足だという意味ではありません。そもそも大スポンサーがついていないコンサドーレが自力で成長していくのは難しいことなのです。そこをどう打開していくかを考えました。幸いにも北海道には500万、札幌市には200万の人々が暮らしています。地元資本の企業も多く、ローカルメディアも揃っている。北海道にプロのサッカークラブが存在することの価値を様々な人たちに知ってもらえれば、地域とともに発展していくことは可能ではないかという答えに行き着きました。


野並:まず、Jリーグのクラブとしては初となる大手広告代理店との長期大型契約を結ばれました。これを機に、北海道全域でコンサドーレの試合が地上波で放送されることになります。さらには、パートナー企業と共に電力会社を立ち上げるなどそれまでのスポーツビジネスの常識に捉われない手法で組織改革を次々と遂行されました。野々村社長は、こうして関係を築き上げた、スポンサー、ステークホルダー、パートナー企業、サポーターのことを仲間と呼んでいますね。

 

野々村13年から、コンサドーレは、「北海道とともに、世界へ」というチームスローガンを掲げています。サッカーを北海道の文化のひとつとして根付かせるためには、道民の皆さんの日常の中にコンサドーレが欠かせないものにならなければなりません。コンサドーレは常に北海道とともにあるという想いを込めて、関係者の皆さんのことを仲間と呼ばせていただいています。

 
野並:なるほど、コンサドーレというクラブは、サポーター、パートナー企業のモノでもあるということをビジョンとして掲げたわけですね。

野々村:ステークホルダー、クライアントの支援によって、クラブの売り上げが伸びれば、戦力を補強し、チームを強くすることができます。「コンサドーレのサッカーは面白くなるぞ」というイメージが湧くと、多くの人が札幌ドームに足を運んでくれるようになる。このクラブに来て私が最も大切にしたのは、勝ち負けではなく、みんなで同じ目標を共有しているという空気感をつくることでした。J1リーグで常に優勝争いをしているクラブのサポーターやパートナー企業のいちばんの幸福は何かといえば、そのクラブが優勝することですよね。しかし、コンサドーレがそのステージにたどり着くには、まだ相当の時間がかかる。だから、サポーターやクライアントには、チームを正しい方向に導く当事者になってほしかった。チームづくりの楽しさを北海道の人たちと一緒になって分かち合うことで、優勝はできなくても幸福感が生まれるのではないかと考えたのです。

 

野並:確かに大スポンサーのついている売り上げの高いクラブと、そうではないクラブでは、歴然とした戦力の差が生じます。しかし、そのことを意外と理解できていないサポーターも多いですよね。

 

野々村:おっしゃるとおりで、長いシーズンを戦い抜くには、資金力のあるクラブのほうが圧倒的に有利です。そのことをわかっていただけないと、「コンサドーレはたまにJ1に上がるけれど、すぐに降格する。応援する気が失せるよね」といった空気になってしまう。社長に就任した当初は、スタジアムにそういうムードが漂っているように感じました。まず、こうした空気を変えたかったのです。私は時折、札幌ドームのスクリーンを使って、サポーターにクラブの現状を正直に伝えるようにしています。「申し訳ないが、現段階では優勝することはできません。でも、あと売り上げが10億くらい伸びて、45億円くらいになれば絶対、コンサドーレを優勝させます」と、約束しているくらいです。

 

野並:自らのチームの状況をオープンにすることは素晴らしい試みだと思いますが、一方で、約束を果たせなかったときには責任問題に発展しかねません。相当な覚悟が必要なのではないでしょうか。

野々村:選手時代の経験が大きかったのだと思います。プロスポーツの世界というのは、結果を出せない選手は、いとも簡単に契約を解除されます。そういう環境下でずっとやってきたので、強いメンタルも自然に養われたのだと思っています。

Text by Hiroshi Shinohara | Photographs by Masahiro Miki