• HOME
  • 子どもを産み育てたい社会へ~企業が取り組める少子化対策~

子どもを産み育てたい社会へ~企業が取り組める少子化対策~

2020/07/30 21:00

我が国の出生数は1970年代後半から減少傾向にあり、今後の人口推計では2053年に総人口が1億人を割る予測となっている。人口減少は潜在的な経済成長率を低下させると指摘されており、日本経済の持続的な成長には少子化の要因となっている若者の経済的負担や女性への育児負担、晩婚化や晩産化といった課題を克服する必要がある。
2020年6月29日、公益社団法人日本青年会議所(以下JCI日本)人口政策推進会議 議長の田辺直也氏は、少子化問題の医学的知見を広げるべく日本産婦人科学会・倫理委員会・登録調査小委員会委員長である齊藤英和(以下齊藤氏)と対談の機会を設けた。


田辺直也(以下田辺): 本日は先生にかねてよりアドバイザーとしてご指導をいただいておりますWEBページの対談企画ということで、若い世代の方々に様々な気づきを感じていただける機会にできたらと考えております。

早速ですが、日本では少子化という社会の現状の中で、政府では若者の経済的負担の問題、子育て世帯の育児負担の大きさなど、様々な課題が挙げられていると思うのですが、先生の医学的な見地から、今の少子化の問題点のポイントが何かあれば教えていただければと思います。

 

齊藤英和先生(以下齊藤): 一番は、やはり皆さん特に若い人が経済的なバックグラウンドをしっかり考えなくなったっていうところが問題ですね。若い方々の年収は、昔に比べると100万円ぐらい減っています。また、非正規が増えている。だから、自分一人だけでも生活していくことに安定感が無くなっていることが、まず一つでしょうね。これが絶対的に大きなバックグラウンドであるので、そこを改善してあげないとなかなか、その次に踏み出せないっていうのが一つだと思います。

それからもう一つの視点としては、やはり日本人は積極的に相手を探すことができない人が結構いると思います。昔はお見合い制度等があった訳で、誰かが世話してとか、会社の上司が世話してとか。私よりも前ぐらいの時代だと、会社自体が出会いの場所だったのかなと思います。しかし、今は、「結婚どう?」とは、言いづらいので、良い人探してあげたいけども言えない、社会がそのような傾向になってきたと感じます。今でも見合い相談などの色々なアプリが出てきていますが、皆さんが普通の生活の中で90%以上居る所って会社なのですよ。個人と個人になった時にやはりある程度、企業がそういう風土を作ってあげるということが大切だと思います。様々なことを考えると会社が今まで以上に従業員のための結婚につながる場を提供するようなことを考えることが、凄く大切になってくるのではないかと思っています。

 

田辺:確かにおっしゃるとおりです。日々の生活の中で会社にいる時間がほとんどですね。企業も結婚という観点から福利厚生のあり方を考えていく必要がありそうですね。

 

齊藤:企業が従業員のライフデザインというところまでサポートするようなシステム、そういう考え方をもつというのが大切になるのではないかと一つ考えられますね。

それから価値観の変化もあります。結婚って昔は家と家との結婚でした。特に明治民法だった時代は、家を存続するためという考えが結婚にありました。だから、親や親戚がその家を絶やさないために、親ぐるみ、家ぐるみで結婚を考えてきた。それが戦後、だんだん個人と個人との関係性が合わないとなかなか結婚が成立しなくなり結果、逆に親とか他の人があまり口出しをしなくなったというバックグラウンドがある訳です。だからそういう要因も日本の少子化には考えられる訳で、それをどこまで打破していくかという視点ももつべきですね。

 

田辺:日本全体として旧来は社会全体で結婚をサポートしていくような仕組みがあったのに対して、近年は個人と個人の関係になってきたという中で、会社の役割が非常に重要になるではというお話しをいただきました。

それでは先ほどのお話を踏まえ、齊藤先生は現在、企業のライフプランニングなどご指導をされる機会もあると思いますが、その際に企業で若者に対してどのようなアドバイスや指導等をされているか教えてください。

 

齊藤:公益財団法人1moreBaby応援団という団体を支援してくださっている企業の一つでは、入社時の新人研修で1時間ぐらい妊娠適齢期の話をします。妊娠する能力は一人ひとりで凄い差があって、女性はAMH値である程度分かり、精子の場合は精子検査でわかります。ちなみにこの企業では、検査費用を支援する制度があります。自分の妊娠する能力は健康のバロメーターの一つで、貧血、その他の疾患の有無も健康の指標の一つだけど、妊娠できる能力だって健康の指標の一つであり、新入社員の時期、つまり20代が一番、妊娠出産に良い時期なので、その時期に自分のライフプランを立てるのが良いのではないかという話をしています。

受講後に感想を聞くととても好評で、会社がそこまで自分達のことを考えてくれているのだという声が多いです。新人研修で仕事に慣れてもらって会社でドンドン活躍していくのはもちろん大切だけど、人生を考えた時に仕事と家庭が両方うまく回っていかないと、その人の人生は好循環しない訳です。個人はキャリアアップしながらも、仕事と家庭の両輪をきちんと回していくような人生設計を立てる。会社は個人がキャリアアップを実現しながらも家庭がもてる環境をつくる。こういうことを意識させるための話をして、その後どうしていくか本人に考えてもらうことが大切だと思います。

 

田辺:福利厚生の新しい考え方として若い社員の方に妊娠に対する検査をサポートすると言うのは素晴らしいし、中小企業でも実践できるかなと感じました。今後は企業が選ばれていく時代で、経営者の多い私たち青年会議所メンバーは参考にしたいと思います。

 

齊藤:中小企業ってむしろ大企業よりマネジメントしやすいと思います。トップの方が考えればトップダウンで色んなことが変えていけるので、知識として企業のトップの方がもっているということも凄く大切だろうと思います。

 

田辺:青年会議所の中でも企業向けに妊活を考える様なセミナーを今後考えていきたいと思います。私はもうすぐ36歳になりますが、私の周りでも子供ができず不妊治療を受けていたり、これから不妊治療を受けなければならないという人が増えてきている現状があります。実は私のかなり近い親族も、3~4年不妊治療を続け、なんとか妊娠できても流産を繰り返すなど辛い経験がありました。子供をもつことが大きな苦になってしまうような現状を何とか打破していきたいと切に思うのですが、私も含めて妊娠・出産に対する知識を学ぶ場が少ないと感じています。その辺りについて教育的な側面から先生のお考えがあれば教えていただきたいと思います。

 

齊藤:妊娠・出産の知識を学ぶというのは凄く重要です。ところが本当に知ってほしい人に集まってもらおうとしてもほとんど集まりません。それは当たり前で、同じ時間を使うとしたら面白い映画が上映していたらそっちに行ってしまいます。もちろん大切だけど本人に選ばせると後回しになってしまいます。だからこういう大切なことは、大学の教養課程や企業の新人研修などの誰もが聞くという機会で伝える必要があります。とにかく否応なしに好きだとか嫌いだとか関係なく、国語や算数や英語や社会のように好きでも嫌いでもとにかく習う。そう言う状況にすべきです。また、企業であればトップが新人研修の中に1時間か2時間必ず妊娠・出産の知識を学ぶ時間入れることができると思います。保健指導、福利厚生などの話と並べてライフプランの立て方というお題で新入社員は絶対受けなきゃいけないようなカリキュラムにするということが大切です。

 

齊藤:そしてとにかく若い時期に意識しないといけません。妊娠適齢期は男性も女性も20代なのです。もちろん不妊治療を受けている人もいますが、その割合は20代半ばなら10%弱です。ところが30代半になると30%近くなるわけです。3倍以上、つまり2割ぐらいの人は20代であれば不妊治療を受けなくても妊娠できたはずなのに、そのことを知らずに不妊治療が必要になってから子供を持とうとしている。だから大変になる訳です。もちろん35歳でもすぐに妊娠できる人はたくさんいます。しかし不妊治療を受ける割合はどんどん増えています。あの人が35歳で妊娠できたから私も大丈夫って思っちゃう人がたくさんいるのです。こういったことを若いうちにしっかりと知ってライフデザインをする。このためには若いうちに出産してもキャリアアップに影響を与えない環境があり、若いうちに妊娠した方が不妊治療にお金と時間を掛けずに済み、よりよいキャリアを積みやすいという会社の環境が整っているということが大切です。

 

田辺:先ほど最初に若者の経済的なバックグラウンドというお話がありましたが、やはり若者の経済的な充実と同時並行で、高齢出産のリスクなり、高齢になるほど妊娠の機会が減るという知識の提供をあわせて行っていかないと、気付いた時には遅いという状況になってしまうと感じています。ぜひ青年会議所メンバーの企業からやっていくような仕組みを作っていきたいと思います。それも踏まえて齊藤先生から大学生や新入社員の方々にこれだけは絶対に頭に入れておいて欲しいという妊娠や出産に関するアドバイスをお願いします。

 

齊藤:医学的には妊娠の適齢期は男女共に20代だと言うことを意識して欲しいと思います。これより高齢になると不妊の確率が上がることや妊娠しても、妊娠中のトラブル、出産の時のトラブル、赤ちゃんのトラブルなどが多くなります。例えば、ダウン症の子供に関して確率的なことを言うと20歳の人が産めば1500人の出生児あたり1人しか産まれません。しかし40歳だと100人に1人という確率になります。

 

田辺:とても確率が高くなるのですね。それほどまでに確率が上がるとは驚きです。

 

齊藤:単純に15倍です。年齢が高くなるだけでそれだけ確率が高くなっていくのです。このことはダウン症だけではなく他の染色体異常も同じように増えていきます。今はNIPTという検査があって、妊婦さんの血液を採って、赤ちゃんに染色体異常が無いかを調べることができるのですが、その費用は10万円以上かかってしまいます。高齢になると児の染色体異常の率が上昇するので高齢なほど、NIPT検査も調べざるを得なくなってきて、それだけでまた費用も掛かります。またそれ以外にも様々な疾患も増えてきます。例えば男女共に、年齢が上がるにつれて癌になりやすくなります。20代から増えている癌は子宮癌と乳癌です。胃癌とか大腸がんとか肺癌とかではありません。生殖に一番関わるような臓器で、癌の確率が年齢と共にどんどん増え、それは同時に妊娠・出産のリスクが凄く増す訳です。もちろん他の癌も少しずつ増えていきますが、一番20代や30代で一番増える癌は乳がんと子宮癌であり、それを知った上でも遅く産みたいというのであれば、それは個人の考え方ということで良いのですが、まずは知っておくことが大切だと思います。

 

田辺:確かに、今お伺いしたお話だけでもちょっと考え方が変わるというか、かなりドキッとさせられました。私達も様々な情報をインターネットで啓発していきたいと取り組んでいるのですが、こういうダイレクトにドキッとさせるようなテーマにした方が、若い人が少し緊張感を持って調べてみようと思うかなと感じました。今、自分が聞いていて思ったので、その辺を反映していきたいなと感じました。

 

齊藤:これも考え方ですが、企業等でも新人研修の時に全員必ず妊娠・出産等の講義を受講するようなシステムにしないといけないかなと思います。大学などでも1年目でも2年目でもいいので学校のカリキュラムとして一度は全員が聞くようにすることが大事です。新人や1・2年目の学生に選んでもらうのではなく、否応なしに受講するといったようなシステムが必要だと思っています。

 

田辺:その点を私達も強く訴えていき実例を作りながら、最終的には行政にも働きかけをしていきたいと思います。現在はコロナ禍であり、そのことでまた妊娠に関する考えが少し臆病になっていく部分もあるかなと思うのですが、現在データとしてあまり無いかとは思いますが、新型コロナウィルス自体が妊娠・出産に対してマイナスなところがあるか、分かる範囲で教えてください。

 

齊藤:妊婦さんが新型コロナウィルスに罹りやすいかと言ったらそんなことは無く、普通の人と同じ程度であると思います。また妊婦さんが新型コロナウィルスに罹った時に症状が強くなるという事は基本的には無いと考えられます。ただ、罹ったことによって子供がどうなるかは、産まれてから何年か経って検査をしていかなければ分かりません。もう一つ、一般の人と同じ頻度で病気になるとしても、妊婦さんは臨月となってくるとお腹も大きくなり、新型コロナウィルスに罹って無くても呼吸が困難になる人は結構います。新型コロナウィルスも呼吸器疾患ですので、かなり呼吸器系の問題が強く出るのだろうといわれています。あとは、新型コロナウィルスに罹っていたら分娩も普通分娩は出来なく帝王切開となると思います。力んで大声を出したらウィルスが飛沫し、分娩の介助をする人がみんな感染してしまうリスクが高くなります。医療従事者の方々が大勢感染してしますと分娩を介助する人がいなくなってしまいます。ですからほぼ帝王切開して出産すると言うことになると思います。そういうことでは少し妊婦さんが感染するとリスクが高いのかなと思います。

 

田辺:本日は貴重なお話しをありがとうございました。日本青年会議所では引き続き、子供を産み育てることが幸せと感じられる社会を目指して、結婚・妊娠・出産・育児に関して若者の視点からアプローチをしてまいります。今後ともご指導をよろしくお願いいたします。


◆齊藤  英和 / Hidekazu Saito
医療法人 栄賢会、梅ヶ丘産婦人科 ARTセンター センター長
医療法人 浅田レディースクリニック 顧問
神戸元町夢クリニック 顧問

◆田辺直也 / Naoya Tanabe(JCI飯能)
公益社団法人日本青年会議所 人口政策推進会議 議長。