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災害に強い国づくりは、ピンチに強いヒトづくりから

2020/03/11 09:00

アルピニストとしての経験を活かし、気候変動対策、災害支援にも積極的に取り組む野口健氏。被災者に寄り添った支援を行うために最も重要なこととは何か。公益社団法人日本青年会議所(以下:JCI日本)会頭 石田全史氏と語り合った。


時代に即した防災システムを


石田全史(以下石田):防災白書によれば、この100年間でマグニチュード7以上の大地震の約10%が日本で起きています。また、近年は大型の台風、突発的なゲリラ豪雨が全国各地を襲い、ライフラインが停止する事態に追い込まれる自治体も出ています。災害の規模は年々大きくなるばかりです。被災した市町村が災害対応の指揮を執るという現行の法制度は限界にきているのではないでしょうか。JCI日本では、発災の備えから復旧復興を経て、地域再生までの切れ目ない新たな防災システムの構築が急務だと考えています。野口健さんはアルピニストとしての豊富な知見を活かし、東日本大震災や熊本地震など、被災者に深く寄り添った支援活動を行われています。日本の防災の現状の課題をどのように捉えていますか。

野口健(以下野口):ソフト面に大きな課題があるのではないでしょうか。まず、地域によって防災の取り組みに大きな差があります。災害を経験したことのない市町村では、発災時に迅速かつ的確な判断ができません。何を優先していいかわからず、戸惑う光景を何度も目の当たりにしてきました。例えば、日本と同様、災害大国のイタリアでは発災から2日以内に必ず行わなければならない対策が法律化されています。まちの至るところにテントやベッドなど災害時に必要な什器をストックする場所があるので、発災後すぐに避難所をつくれます。日本では毎年のように地震や台風など何かしらの災害が起きるとわかっているのですから、国が責任をもって明確なルールをつくるべきだと思っています。

石田:政府は建物の耐震補強、ダムや堤防の建設などハード防災に力を入れてきた歴史があります。一方、JCI日本には災害時にボランティアでリーダーシップを執れる人材が豊富にいます。メンバーの中には防災士の資格を取り、被災者のニーズに合った多様な支援の必要性を説く者もいます。ところがソフト面の運営は市町村が行うので、時折、摩擦が起きることもあるのです。例えば、100人の被災者がいる避難所に、60人分の救援物資を用意したところ、それでは全員に配れない、公平性の観点で問題があるといって拒絶されるケースがありました。

野口:そこが一番のネックだと僕も思います。2016年の熊本地震の際、避難所に隣接する運動場にテント村を併設したとき、当初は歓迎されなかったのです。町長から許可をもらっているのに、管理団体から被災者全員が入れないようなテント村は公平性に問題があるから認められないと言われ、唖然としました。何とか押し切って実現にこぎつけましたが……。

(テント数150張以上が設営され、570人以上がこのテント村で生活した)

石田:救援物資が十分足りている場合でも面倒な手続きを要求されます。例えば、被災者はペットボトルの水一本もらうのも列に並んで、名前を記帳しなければなりませんでした。

野口:知人から聞いた話なのですが、東日本大震災のときに、ある団体が180個のイチゴのショートケーキを避難所に運んだことがあったそうです。その避難所には200人近くいたので、同様の理由でケーキの受け取りを拒否されました。ケーキなんて切って分ければいいし、甘いものが嫌いな人もいます。

石田:被災者の中には高齢者、障がい者、小さな子供もいます。支援する対象者の優先順位を明確にするべきだと思います。11年の東日本大震災では、熊本地震でも社会的弱者が必要な支援を受けられず孤立しました。そんな情報はインプットされているはずです。世界では誰ひとり取り残さない「インクルーシブ防災」という新たな考え方に多くの国がコミットメントしています。SDGsの概念にも通じています。行政がハンドリングできないのであれば、法整備を行い、民間と力を合わせるべきだと私は思っています。

野口:大規模な災害が起こると、災害そのもので亡くなる人よりも、その後の避難生活によって健康を損ない、命を落としてしまう人のほうがはるかに多いのです。絶対、改善しなければなりません。

石田:そのソリューションとして、野口さんはテント村の開設に踏み切ったのですね。

text by Hiroshi Shinohara | Photographs by Masahiro Miki