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水を節約するという「規範」|数字で読み解くSDGs

2019/12/23 15:00

人口の増加や都市化の進展によって、20世紀の間に世界の水の使用量は実に6倍になったという。

水の確保は開発途上国にとって重要な課題のひとつである。近年、エネルギー消費削減の目的で行われる政策の中で最も注目を集めているのは、「ナッジ」である。

ナッジとは、行動経済学の専門用語で、「軽く肘でつつく」というような意味を持つ。アムステルダムの男子用トイレの便器に1匹のハエの絵を描いたところ、清掃費が大幅に削減されたというナッジは有名である(人は的があると、そこに狙いを定めずにはいられない生き物らしい)。

筆者は女性であるから実際に確認したことはないが、周囲の男性の話によると、ハエの絵の描かれた便器は、今や世界中の空港に存在しているらしい。

コンビニに人の目のシールを貼って万引きを予防したり、階段にピアノの鍵盤の絵を描いて階段の利用を促したり、人々の行動をちょっとだけ変えるように仕向けることによって、低いコストで社会を良くする「ナッジ」があちこちで行われている。

世界銀行は、コスタリカで節水を促すナッジを実施し、大きな成果を挙げている。コスタリカのベレン市で、人々は2つのグループにランダムに振り分けられた。

1つ目は水道料金の請求書に、自分の家で使用した水道使用量だけでなく、自分の居住地区の平均的な水道使用量を通知されるグループ、2つ目は、自分の居住地区ではなく、ベレン市全体の平均的な水道使用量を通知されるグループである。両方とも、平均使用量を上回った世帯は「泣き顔」のシールと、水道使用量が多いことに対する注意を促すメッセージを受け取った。

かつて税金の滞納者への通知に、自分の居住地区の平均的な納税率を記載することで、納税率が高くなり、滞納が減少したという有名なナッジがあり、それにアイデアを得て、納税を節水に置き換えたのであろう。

実験の結果、両方のグループが、 水道使用量を減少させた。全体では、毎月入浴8万7,000回分を節水するほどの大きな効果を得たという。ただし、市全体より、居住地区の平均的な使用量を通知されるグループのほうが節水量は大きかった。

近隣住民が節水をしているという事実を知り、判断や評価の拠るべき基準(これは「規範」という)を明確にしたことで、住民の節水行動が促されたことがわかる。しかも、人々は、市全体のような大きなグループではなく、ごく身近な、自分の属するコミュニティの中で形成された「規範」に強く反応するらしいというのも面白い発見である。

文=中室 牧子