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Natalia Deriabina / Shutterstock

母親と胎児を守る社会をつくる|数字で読み解くSDGs

2019/10/16 15:00

近年、赤ちゃんが母親のお腹にいる胎児期の環境が、子供の生後の健康に大きな影響を与えることを示す研究が数多く発表されている。サイエンスライターであるアニー・マーフィー・ポールが一連の研究成果をまとめた著書、『起源』(ORIGINS)はベストセラーとなった。

胎児期の環境に影響を与える重要な要因のひとつは、母親の栄養状態である。イスラム教徒がラマダンと呼ばれる断食をする時期に妊娠していた女性は、子供を流産する確率が高く、さらに無事に生まれたあとも出生時体重が低く、精神障害を抱える確率が高いという。さらに生まれた子供は、就学期の偏差値が0.5-0.8も低いという。(*)

妊娠中に母親が過度なストレスを感じることも、胎児期の環境に影響を及ぼす。妊娠中に災害やテロによって家族を亡くし、精神的なショックを受けた母親から生まれた子供は低体重になることを明らかにした論文がある。

これ以外にも、開発途上国のデータを用いた研究には、母親が感染性疾患にかかったり、公害や極端な天候の変化にさらされたり、妊娠中にたばこやアルコールを摂取した場合、生後の子供の健康に悪影響があることを示唆したものがある。

さらに驚くべきことに、これらの胎児期の負のショックがもたらす影響は、少なくとも孫の世代まで受け継がれることを明らかにした研究もあるから、妊娠中の母親の健康をすべて自己責任とするのではなく、彼女らが困難に陥ったときに社会としてサポートする準備をしておくことは重要だ。

もし何らかの予期せぬ不幸によって、胎児期の環境が悪化してしまった場合、どうなるのだろうか。近年の研究では、子供が低出生体重などの不利な条件で生まれた場合、親は兄弟姉妹の間で差が生じないように行動することが示されている。

例えば、兄弟姉妹の中で1人だけ低出生体重で生まれた子供がいたとすると、両親はその子に格別の注意を払い、教育や健康面での投資を集中させる。結果、その子は兄弟姉妹と同等の成果を残す。しかし、これは逆の言い方をすれば、健康面で不安を抱える子供に集中的に投資する代わりに、健康な他の兄弟姉妹が犠牲になっていると見ることもできる。

この研究の含意は、運悪く胎児期の環境が悪化してしまい、低体重で生まれた子供に対する早期介入は、当事者である子供だけでなく、他の兄弟姉妹を含む家族全体に負担があるため、政府や自治体による積極的な支援が求められるということなのではないか。

タンザニアやケニアなど一部の開発途上国では、妊婦の栄養や体・精神両面での健康の維持、低体重で生まれた子供に対するサポートなどに積極的で、こうしたプログラムは総じて成功を収めているのも特筆に値するだろう。


* イスラム教義上妊娠中の断食は強制ではないが任意で行うこともある。

文=中室 牧子