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New Africa / Shutterstock

発展途上国に「トイレ」を増やす効果的な方法とは|数字で読み解くSDGs

2019/12/04 15:00

衛生環境の悪さが開発途上国の人々の命を脅かしている。世界保健機関の推計によると、世界の人口の約15%がいまなお、野外で排泄をしている。このことが衛生環境の悪化を招き、感染症や下痢を引き起こし、1年間に約28万人もの死者を出しているとの推計もある。

トイレを有しない家庭が多い東アジアでは、野外での排泄に起因した問題は特に深刻で、インドのモディ首相が「トイレが先、お寺は後」(toilets first,temples later)と発言したことは有名である。ところが、トイレの普及は一筋縄ではいかなかった。

インドでは当初、限られた財源でトイレ設置に補助金を出すよりも、トイレの恩恵など正しい知識を持つよう啓蒙活動をすれば、人々の自発的なトイレの設置につながると考え、大規模なトイレ普及キャンペーンを行ったが、残念なことに目立った成果を上げられなかったのである。

このような中、米イエール大学のモバラク教授らが、トイレを普及させる方法として、何が効果的かを検証した優れた研究を発表した。

バングラディシュの最貧困地域で、約2万人が居住する380のコミュニティを、①トイレの普及を促すキャンペーンの対象となるグループと、②トイレの販売・設置・維持等を助ける事業者をコミュニティに常駐させるグループ、③コミュニティの中で一部の住民が抽選でトイレ設置の補助金を得られるグループにランダムに振り分け、どのグループで最もトイレの設置率が高くなるかを検証したのである。

この実験の結果によれば、①のキャンペーンと、②の事業者を常駐したコミュニティでは、トイレの設置率はほとんど変化しなかった。一方、③のコミュニティの中で、トイレ設置の補助金を得た家庭では、設置率が22%も上昇した。更に驚くべきことに、補助金に当選しなかった人たちの間での設置率も8.5%上昇した。

つまり、新たにトイレを設置した家庭の隣人たちは、自らは補助金に当選しなかったにもかかわらず、自腹でトイレを設置したのである。

この実験がもたらした教訓は大きい。これまで多くの政策担当者は、トイレの普及が進まない原因は、人々がトイレの恩恵を理解していなかったり、トイレの購入方法や設置・維持の仕方がわからないという「知識不足」にあると考えていた。

しかし、真に打ち破るべきは「知識の壁」ではなく、トイレの「価格の壁」だったのだ。そして、新たなトイレ設置は、隣家での設置を呼ぶ好循環を生む。隣人同士の意思決定がつながりを持つことを理解しておけば、補助金はより費用対効果の高い政策となりえるだろう。

文=中室 牧子