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コモンズ投信会長 渋澤健

公のための資本主義、その神髄を探る

2018/02/15 13:00

わが国の資本主義の父、渋沢栄一の5代目子孫にあたる渋澤健氏。利益と併せて公益を考える“ステークホルダー資本主義”を提唱し、その神髄を世界に伝えている。そんなエバンジェリストに訊く、公のために尽くす人財のあり方とは。

池田祥護(以下、池田):渋澤健さんは、日本の近代資本主義の父と評される渋沢栄一氏の5代目子孫にあたりますが、まずは渋沢栄一氏が唱えた“資本主義”とは、どのようなことなのかを教えていただけないでしょうか。

渋澤健(以下、渋澤):近代化が迫られた明治・大正時代の日本にあって、栄一は銀行など500社ほどの会社の設立に関与したといわれています。確かに、わが国で初めて資本主義を唱えた人物とされていますが、実は本人は資本主義という言葉を使っていませんでした。よく発していたのは“合本(がっぽん)主義”なのです。

池田:日本初の銀行を設立したのは1873(明治6)年のことですね。

渋澤:そのとおりです。ここにいる我々は、「銀行」という言葉を聞けば、もちろん社会でどのような役目を果たしているかがすぐに想像できます。しかし当時の日本人は、その言葉を聞いて首を傾げた。なぜなら、それまで銀行は日本には存在しておらず、銀行という言葉も造語だったからです。現在の表現を使えば、当時の銀行はスタートアップにすぎなかったのです。そこで栄一は、銀行の価値について、出資者を説得する株主募集布告で次の表現を用いました。

──銀行は大きな河のようなものだ。銀行に集まってこない金は、溝に溜まっている水やポタポタ垂れている滴と変わりない。せっかく人を利し、国を富ませる能力があっても、その効果はあらわれない。

お金という資源は散らばった状態では微力です。しかし銀行に集まれば、いずれ大河の流れとなり、国の原動力となり、経済発展を支えると。そういう構想を考えたわけです。

池田:まさに、合わせる力ですね。

渋澤:そうですね。栄一の考え方というのは、あくまでも株主を否定しているものではありません。自分自身も株主でしたから。ただ、企業というのは株主だけのためにあるのではなく、そこに勤めている経営者や従業員のほか、取引先、顧客、地域社会など、いろいろな利害関係者、すなわちステークホルダーがいて、そのために存在しているのだと。そんなことを栄一は、今から150年前に唱えたのです。

ですから、昨今の企業経営や投資に対する考え方や取り組みが、シェアホルダー(株主)資本主義からステークホルダー資本主義へと移行しつつあることは、何も新しいことをやり始めるということではない。むしろ原点回帰の試みだととらえるべきではないでしょうか。

池田:渋沢栄一氏は事業投資をしながら人を育てるということに力点を置いていたと思いますが、人を育成する効果的な方法があれば考えをお聞かせください。

渋澤:頭でっかちになるなということではないでしょうか。論語など教養は大事ですが、ただそれを知るだけではなくて実践しなければなりません。

現在の日本社会は年功序列の慣習が残り、それはそれでメリットもありますが、やはり、立場が人をつくるということがあると思います。私も起業を通してすごく変わりました。雇われる身から、自分が雇わなければならない身となり、看板というものをつくることになったとき、覚悟が変わったわけです。

ですから、JCの皆さんのように若くエネルギーがみなぎっているときから、そういう立場になることは、今の日本社会にとって大切なことだと私は思っています。

Text by Hideyuki Kitajima|Photographs by Masahiro Miki