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日本式の教育が途上国の「学びの危機」を救う|数字で読み解くSDGs

2019/05/02 15:00

開発途上国では、「学びの危機」(learning crisis)と呼ばれる状況に危機感が強まっている。読み書きや計算など、ごく基本的な知識やスキルすら身につけられずに卒業したり退学したりする子供が増加しているという。就学率の急速な上昇に対して、学校建設や教員の雇用、教材の開発などが追い付かず、教育全体の質が著しく低下した結果であるとの見方が多い。公教育の質が低下する中、家庭の経済状況によって学力の高い層と低い層に二極化する現象もみられるようになってきており、ますます指導が難しくなるという悪循環も生じている。このような問題に対する処方箋のひとつとして、近年注目を集めているのが、コンピューターによる学習支援(Computer-Assisted Instruction:CAI)である。

学力が二極化している生徒を1人の教員が一斉に指導するよりは、タブレット端末などを利用し、個々の生徒の習熟度やスピードに合わせた個別学習教材を提供したほうが効率的な学習機会となるかもしれないからだ。実際、開発途上国でCAIの効果を検証した論文には、子供たちの学力向上が確認されたことを報告しているものが多い。

筆者の研究室でも、カンボジア政府の協力を受け、国際協力機構(JICA)委託事業として、花まるラボと共同で同社が開発した“Think!Think!”という教育アプリの効果を検証する大規模な実験を実施した。首都プノンペン周辺の5つの公立小学校で、40クラスに属する生徒のうち、ランダムに選ばれた20クラスの生徒には、算数の授業の一部でタブレットと教育アプリを用いた学習を行い、アプリを用いない残りの20クラスの生徒と比較した。3カ月後、小学校3年生の学力テストは偏差値で6.8、同4年生は6.1も改善し、生徒たちが将来大学に進学したいという意欲も向上していた。

他の開発途上国で行われた同様の研究に比べると、カンボジアでの実験では、学力やIQを改善する効果が大きかった。筆者は、この結果は、CAIが効果的であることに加えて、国内で学習塾の経営で実績を上げている花まるラボの質の高い「日本式」教材を用いたからではないかと考えている。アジア開発銀行の澤田康幸氏らが、バングラディシュで実施した実験がある。こちらも筆者らの研究とよく似た方法を用い、小学校低学年の生徒を対象に、8カ月間の公文式学習の効果を見たもので、こちらもまた学力やIQに大きなプラスの効果が確認されている。いずれも1年に満たない短期間で、大きな効果を上げていることが特徴的だ。日本式の教育が開発途上国の子供たちを「学びの危機」から救いつつある素晴らしいニュースといえるのではないか。

文=中室 牧子